2016/11/23
ふたりがしゃがんで矢を見ているところへ、シルクがすばやく近寄ってきた。「どうやって見わけるのか教えてくれ」
「矢羽根に特徴があるんです」レルドリンは答えた。「ぼくはいつも羽根をつけるのによじった腸線を使ってるんです」
シルクは矢の羽根の部分をさわった。「わかった。おれにも物業二按見わけられる」
「本当ですか?」レルドリンはうたがわしげだった。
「おれの指先が一対のサイコロのきずを見つけられるなら、腸線と亜麻糸の違いだってわかるさ」
「なるほど。それじゃここからはじめましょう」レルドリンは糸玉の先端をいま見つけた矢にむすびつけた。「ぼくはこっちへ行くから、あなたはあっちへ行ってください」
「よしきた」シルクは持ってきた糸玉の先を同じ矢に公屋貸款むすびつけた。かれはガリオンとダーニクのほうを向いた。「水の件だが、やりすぎるなよ、おふたりさん。土砂くずれに埋まり
たくないからな」それだけ言うと、シルクは腰をかがめて次の矢をさぐりに行った。レルドリンがガリオンの肩にちょっと手を置き、反対方向に姿を消した。
「地面はもう完全にびしょぬれだ」ダーニクはつ雀巢奶粉ぶやいた。「あそこの裂け日を一フィートばかり広げたら、外壁の下の支えはあらかた押し流されるだろう」
「よし」
ふたたびかれらは丘の斜面のぬれそぼった地面に思考をさぐりいれ、岩層を見つけてからその不規則な表面をいきつもどりつして最初の裂け目をつきとめた。はるか下方から水の噴

き出してくるその細い裂け目の奥へゆっくり思考をおろしていくうちに、ガリオンは奇妙な感覚にとらわれた。まるで先端に細くてしなやかな指のついたとてつもなく長い、見えない
腕を裂け目の奥へのばしているような気がする。「さがしあてたかい?」かれはダーニクにささやいた。
「だいじょぶそうだ」
「それじゃこじあけよう」ガリオンは意志に力をこめた。
少しずつふたりは裂け目を押し広げた。かれらの額に汗の玉がういた。ふたつの意志の力で岩が割れたとき、鋭くくぐもった破裂音がたっぷり水を吸った斜面の底からひびいてきた
。
「だれだ、そこにいるのは?」都市の外壁の上から声が難詰した。
「広さはこれでじゅうぶんか?」その警戒をふくんだ誰何《すいか》を無視してガリオンはささやいた。
「水が猛スピードであがってくる」一瞬さぐりをいれてからダーニクは答えた。「あの岩層の下には相当な圧力がかかってるぞ。次の場所へ移動しよう」
後方のどこからかブーンとうなる音がして、奇妙なざらざらした口笛が頭上を通過し、ヤーブレックの投石器からとびだした引っかけ鉤のひとつが半円状に空を飛んでいくのが見え
た。鉤は外壁の内側にがちゃんとぶつかり、やすりがこすれるような音をたてて先端を外壁にくいこませた。
ガリオンとダーニクは這うようにして慎重に左へ進み、最小限の音をたててぬかるみを歩きながら次の割れ目を地面の下に捜し求めた。レルドリンが戻ってきたときには、水のしみ
わたった斜面の下に隠れた割れ目を、すでに二ヵ所大きくしていた。頭上と後方では、斜面のぬかるみがごぼごぼと音をたてて茶色の川のように流れだしていた。「矢の列は最後の一
本までさがしあてたよ」レルドリンが報告した。「こっちの用意は万全だ」
「よし」意志の力を発揮していたガリオンはちょっと荒い息をついた。「もどって、バラクに部隊を所定の位置まで移動させるよう伝えてくれ」
「がってんだ」レルドリンはきびすをかえすと、にわかに吹きはじめた雪まじりの突風のなかへ見えなくなった。
「このひとつは気をつけなくちゃならないぞ」土の下をさぐっていたダーニクがつぶやいた。「この岩はひびわれだらけだ。裂け目を大きくしすぎると、層全体がめちゃくちゃになっ
て水が奔流のようにあふれてしまう」
意志の指でひびわれをさわったガリオンは同意のしるしにうなった。
ふたりが最後の地中の井戸にたどりついたとき、らわれた。そのはしっこい足はぬかるみを移動しても物音ひとつたてなかった。
「どうしてこんなところにいるんです?」ダーニクは小男にささやいた。「とっくの昔に立ち去っているはずでしょう」
「斜面を点検していたのさ」シルクは答えた。「あらゆるものが冷たい肉汁みたいに雪の上にしみだしてきたんで、上までいって外壁の基礎になってる石をひとつ足で押してみたんだ
。まるでぐらぐらの歯だよ」
「やれやれ、結局うまくいったか」ダーニクは自己満足の口調で言った。
雪の闇の中で、一瞬の間があった。「確信はなかったというのか?」シルクの声は首をしめられているみたいだった。
「理論的にはかんぺきでしたよ」鍛冶屋はむぞうさに言った。「しかし理論が絶対正しいかどうかはやってみるまでわかりませんからね」
「ダーニク、おれはこの種のことには年をとりすぎたらしいよ」
またひとつ引っかけ鉤が頭上を飛んでいった。
「矢羽根に特徴があるんです」レルドリンは答えた。「ぼくはいつも羽根をつけるのによじった腸線を使ってるんです」
シルクは矢の羽根の部分をさわった。「わかった。おれにも物業二按見わけられる」
「本当ですか?」レルドリンはうたがわしげだった。
「おれの指先が一対のサイコロのきずを見つけられるなら、腸線と亜麻糸の違いだってわかるさ」
「なるほど。それじゃここからはじめましょう」レルドリンは糸玉の先端をいま見つけた矢にむすびつけた。「ぼくはこっちへ行くから、あなたはあっちへ行ってください」
「よしきた」シルクは持ってきた糸玉の先を同じ矢に公屋貸款むすびつけた。かれはガリオンとダーニクのほうを向いた。「水の件だが、やりすぎるなよ、おふたりさん。土砂くずれに埋まり
たくないからな」それだけ言うと、シルクは腰をかがめて次の矢をさぐりに行った。レルドリンがガリオンの肩にちょっと手を置き、反対方向に姿を消した。
「地面はもう完全にびしょぬれだ」ダーニクはつ雀巢奶粉ぶやいた。「あそこの裂け日を一フィートばかり広げたら、外壁の下の支えはあらかた押し流されるだろう」
「よし」
ふたたびかれらは丘の斜面のぬれそぼった地面に思考をさぐりいれ、岩層を見つけてからその不規則な表面をいきつもどりつして最初の裂け目をつきとめた。はるか下方から水の噴

き出してくるその細い裂け目の奥へゆっくり思考をおろしていくうちに、ガリオンは奇妙な感覚にとらわれた。まるで先端に細くてしなやかな指のついたとてつもなく長い、見えない
腕を裂け目の奥へのばしているような気がする。「さがしあてたかい?」かれはダーニクにささやいた。
「だいじょぶそうだ」
「それじゃこじあけよう」ガリオンは意志に力をこめた。
少しずつふたりは裂け目を押し広げた。かれらの額に汗の玉がういた。ふたつの意志の力で岩が割れたとき、鋭くくぐもった破裂音がたっぷり水を吸った斜面の底からひびいてきた
。
「だれだ、そこにいるのは?」都市の外壁の上から声が難詰した。
「広さはこれでじゅうぶんか?」その警戒をふくんだ誰何《すいか》を無視してガリオンはささやいた。
「水が猛スピードであがってくる」一瞬さぐりをいれてからダーニクは答えた。「あの岩層の下には相当な圧力がかかってるぞ。次の場所へ移動しよう」
後方のどこからかブーンとうなる音がして、奇妙なざらざらした口笛が頭上を通過し、ヤーブレックの投石器からとびだした引っかけ鉤のひとつが半円状に空を飛んでいくのが見え
た。鉤は外壁の内側にがちゃんとぶつかり、やすりがこすれるような音をたてて先端を外壁にくいこませた。
ガリオンとダーニクは這うようにして慎重に左へ進み、最小限の音をたててぬかるみを歩きながら次の割れ目を地面の下に捜し求めた。レルドリンが戻ってきたときには、水のしみ
わたった斜面の下に隠れた割れ目を、すでに二ヵ所大きくしていた。頭上と後方では、斜面のぬかるみがごぼごぼと音をたてて茶色の川のように流れだしていた。「矢の列は最後の一
本までさがしあてたよ」レルドリンが報告した。「こっちの用意は万全だ」
「よし」意志の力を発揮していたガリオンはちょっと荒い息をついた。「もどって、バラクに部隊を所定の位置まで移動させるよう伝えてくれ」
「がってんだ」レルドリンはきびすをかえすと、にわかに吹きはじめた雪まじりの突風のなかへ見えなくなった。
「このひとつは気をつけなくちゃならないぞ」土の下をさぐっていたダーニクがつぶやいた。「この岩はひびわれだらけだ。裂け目を大きくしすぎると、層全体がめちゃくちゃになっ
て水が奔流のようにあふれてしまう」
意志の指でひびわれをさわったガリオンは同意のしるしにうなった。
ふたりが最後の地中の井戸にたどりついたとき、らわれた。そのはしっこい足はぬかるみを移動しても物音ひとつたてなかった。
「どうしてこんなところにいるんです?」ダーニクは小男にささやいた。「とっくの昔に立ち去っているはずでしょう」
「斜面を点検していたのさ」シルクは答えた。「あらゆるものが冷たい肉汁みたいに雪の上にしみだしてきたんで、上までいって外壁の基礎になってる石をひとつ足で押してみたんだ
。まるでぐらぐらの歯だよ」
「やれやれ、結局うまくいったか」ダーニクは自己満足の口調で言った。
雪の闇の中で、一瞬の間があった。「確信はなかったというのか?」シルクの声は首をしめられているみたいだった。
「理論的にはかんぺきでしたよ」鍛冶屋はむぞうさに言った。「しかし理論が絶対正しいかどうかはやってみるまでわかりませんからね」
「ダーニク、おれはこの種のことには年をとりすぎたらしいよ」
またひとつ引っかけ鉤が頭上を飛んでいった。